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第25回 R&Dにおける「目利き」

 現在、「目利き」は、多くのものづくり企業における技術人材育成上のキーワードとして注目されています。「未来を見据えて技術を目利きできる人材をどう育てるか」、大変難しいテーマですが、R&Dの価値創造力を高めるためには避けては通れない課題であることも確かです。

改めて、「目利き」の意味を辞書で引いてみると、下記のように説明されています。
①書画・刀剣・器物などの真偽やよしあしを見分けること。また、それにすぐれた人。
②人の性質・才能などを感得する能力があること。また,その人。
③目がきくこと。見分けること。

 上記の内容から、目利きとは、「対象物のよしあしを見分ける能力、あるいは能力を持った人」というように理解できます。R&Dに置き換えると、「技術のよしあしを見分ける能力、あるいは能力を持った人」ということになります。

 加えて、R&Dにおける目利きを考える場合、もう一つ重要なキーワードを加える必要があります。それは、「不確実性」です。R&Dの目利きは、現在すでにあるものを見分けるのではなく、未来に形作られるもの、現在は未だ存在しないものを見分けなければなりません。そこには、不完全かつ流動的な情報しかなく、その中で判断することが迫られます。すなわち、R&Dにおける目利きとは、「不確実な情報のなかで、技術のよしあしを見分ける能力、あるいは能力を持った人」と理解することができます。

 また、技術のよしあしは、単に技術的な視点だけで見分けられるわけではありません(第25回コラム「筋のよい技術」に対する誤解)。未来の社会や市場、事業、顧客価値などを加えた複眼的な見方が必要です。さらに、複眼的な見方で得られた情報を、構造思考・分析思考・概念思考・探求思考などの複合的な思考を組み合わせて解釈していくことが求められます。
 R&Dの目利きにおいて、もうひとつ忘れてはならないのは、「やってみる」力です。不確実性の高い中では、いくら頭の中で考えていても、判断の確度を高めることはできません。実際に行動し、発信する中から、新たな情報や気づきが得られ、思考が深まるのです。顧客に会う・発信する、小さな規模で試してみるなど、自ら能動的に実験するなかで気づき、学ぶ力は、目利きにおける鍵になります

 これらの力は、単に机上の教育研修だけで得られるものではないことは明らかです。実際の仕事において、考え、行動し、判断する中で、失敗(小さな)と成功の経験を繰り返すなかから、「決める」ための軸を作り上げるものだと思います。R&Dが組織として考えるべきことは、教育研修制度やデータベースなどの仕組みづくりに加えて、「目利き」を鍛えるための経験ができる仕事や現場の取組みを、R&Dの中にどう作っていくのか、仕掛けるのかだと、私は考えます。

ケミストリーキューブ
平木 肇




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