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コラム

第41回 価値を起点としたR&Dプロセスをつくる

 以前、大手企業の研究所において、技術の見える化と新たな研究開発テーマ創出の取り組みをコンサルティングしたときのことです。ある研究開発チームのリーダーが現在進めているテーマについて説明してくれました。
 「我々は、エネルギー変換効率※※%の実現を目指して進めています。これは、世界一の水準です。そして、そのための技術は・・・・」
 研究開発テーマの目標は、競合技術を分析したうえで定量的に設定されており、必要な技術についても抜け漏れなく抽出されていました。加えて、その論理的かつ緻密な話しぶりから、彼がよく訓練された優秀な研究者であることが分かりました。しかし、一方で、彼の説明を聞きながら、強い違和感を覚えました。なぜなら、そこには、「技術目標を達成することが顧客にとってどのような意味を持つのか、どのような価値(顧客の嬉しい)を創り出すのか」についてほとんど語られていなかったからです。一通り説明を聞いた後、その点について質問しましたが、返ってきた答えは世の中で言われているような一般的なものでした。

 弊社のコンサル経験のなかで、このようなケースは決して珍しいことではありません。確かに、研究開発テーマの企画・実行において、他社技術を分析し、そのうえで定量的な技術目標を設定することは必要です。しかし、それと同じく、むしろそれ以上に大切なことは、研究開発テーマが創り出す未来の顧客価値を、具体的かつコンセプチャルに描き出すことです。そして、それは、未来予測本や公官庁・シンクタンクが出しているレポートなどに書かれている一般的なものを超えて(もちろんそれらをある程度踏まえることは必要ですが)、具体的な顧客をイメージしながら、技術者として、研究者として「こうしたい」という意志を盛り込んだものであることが重要です。

 技術が創り出す顧客価値を構想し、具体化することは、マーケティングなど他部門の仕事ではありません。それは、R&Dが自ら取り組むべき仕事です。技術者、研究者が率先して社内外の関係者、知見者と対話し、研究チームの中で議論を尽くしていくべきものです。そして、核となる人材のスキルとマインドを磨き、彼らが活躍できる組織文化をつくっていかなればなりません。

 技術が生み出す顧客価値を描き、それをもとに目標を設定し、研究開発を進めていくやり方を、弊社は「価値を起点としたR&Dプロセス」と呼んでいます。そして、このプロセスを現場につくりこむことは、イノベーションを生み出すR&Dの力を高めるための主要な着眼点であると考えています。
 弊社は、技術構造化手法iMap(アイマップ)®を核にした独自メソッドを用いて、様々なものづくり企業の現場において「価値を起点としたR&Dプロセスづくり」に取り組んでいます。そして、その取り組みをとおして、技術者、研究者が自ら「顧客価値を描き、意思を持って語る」という行動を、R&Dの組織文化として昇華・定着していくことを支援しています。

ケミストリーキューブ
平木 肇

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