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コラム

第20回 技術開発の目標はスペックではない

 技術開発には必ず目標があります。すなわち、いつまでに何を達成するかを決めて技術開発プロジェクトは進められます。技術開発前の探索プロジェクト以外は、できるだけ明確に目標を設定して進めるということがプロジェクトマネジメントの基本とされています。そこで、多くのプロジェクトでは定量的な目標が設定されます。例えば、従来比※※効率※※%向上とか、※※%小型化とか、※※%原価削減などです。すなわち、製品のスペックを向上させるための目標です。

 明確な定量目標を設定することが重要であることは明らかです。明確な目標は、プロジェクトチームのメンバーのベクトルを揃え、一体感を高めます。また、知恵を集めてブレークスルーすべき課題を具体化し、力を集中させることに繋がります。また、プロジェクトチーム周辺の関係者や上位のマネジャーの理解を得やすくなります。
 ただ、問題なのは、それが製品スペックだけでいいのか、ということです。私が日頃コンサル現場で目にする技術開発プロジェクトでは、「目標とするスペックを達成することで、どのような顧客価値を生み出すのか」という最も重要な技術開発の目標が曖昧なまま、スペック目標だけが設定されて進められているケースが多くあります。スペック目標の多くは、「他社の動きと今後の技術トレンドから考えて、※※年後に※※のスペックを実現しなければならない」といったロジックにもとづいて設定されており、「どのお客様に対して、どのような価値を提供し、その価値は他社に対してどのような優位性・差別性を持つのか」というロジックでは語られていません。すなわち、顧客価値が目標になっていないのです。

 技術開発の目標として徹底的に議論し、明確にしなければならないのは、技術トレンドの予測や競合他社との比較から設定するスペック目標ではありません。「我々は誰をお客様として設定するのか」「そのお客様に提供する価値は何か」「その提供価値は競合他社に対してどのような優位性・差別性を持つのか」という顧客価値の創造という目標です。そして、顧客価値目標を具体化したうえで、達成すべきスペックは何かが明確にされる必要があります。市場がダイナミックに変化し、コスト競争力の強い新興国企業が興隆するなかで、日本企業が横並びでスペック競争を繰り広げ、大量生産によるコスト競争で勝負するというビジネスで生きていける時代は終わりかけていると思います。顧客価値を起点に、他社とは異なる軸で技術開発の目標を生み出せるか、これからのR&Dが磨いていくべき重要な技術力であると考えます。

株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇

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