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第4回 R&Dマネジメントの基本思想 

 第4回コラムは、私がコンサルティングに携わる上で大切にしている研究・開発マネジメントの基本思想である「2軸思考」についてお話したいと思います。これは、私が以前在籍していた(株)日本能率協会コンサルティングにおいて技術開発分野のコンサルティングを切り開いた先輩方から受け継いだもので、私が研究・開発マネジメントのコンサルティングに携わる上で、最も大切にしているものの一つです。

 「2軸思考」には、次のような意味があります。研究・開発現場は、常に2軸の目標を持って仕事に取り組む必要があります。1つは横軸であり、「事業軸」と呼んでいます。これは、財務的な経営成果にダイレクトにつながる目標です。例えば、魅力的な新商品を開発する、競争力のある技術を実現する、あるいは開発期間を短縮する、製品のコストを削減するといった目標です。この目標に向けて、技術者、研究者は日々協力し、知恵を集めて仕事をします。同時に、研究・開発は、常にもうひとつの目標を持つ必要があります。この2つめの目標を、縦軸あるいは「基盤軸」と呼んでいます。この基盤軸(縦軸)は、少し先を見据えて研究・開発が強くなっていくために必要な目標です。例えば、技術者、研究者をパワーアップする、開発のプロセスや標準などを整備する、3D-CADやCAEなどのITを使った開発インフラを構築する、技術者、開発者が働きやすい環境をつくる、など研究・開発現場を継続的に改善していくための目標です。基盤軸(縦軸)は、財務的な成果に比べて見えにくいものですが、横軸と同じく重要な目標です。

  さらに、「2軸思考」における最も重要な考え方は、“事業軸(横軸)と基盤軸(縦軸)を分離させない”ことです。すなわち、技術者、研究者が現場で取り組んでいる今の仕事のなかに、この2つの目標を常に埋め込んでいくことが重要です。基盤軸(縦軸)の仕事は、ともすれば現場と乖離してしまいがちです。専門のスタッフチームが作られ、現場の技術者、研究者から離れたところで仕事をしている例をよくみます。組織としては、2軸思考でマネジメントしているつもりでも、結局、現場の技術者、研究者は事業軸(横軸)だけの世界で仕事をし、基盤軸(縦軸)は一部のスタッフがちょこちょこと何かやっている、そんな状況に陥ってしまいます。事業軸(横軸)と基盤軸(縦軸)が現場の仕事の中でうまく噛み合うと、研究・開発現場はダイナミックに変化していきます。そして、ひいては事業軸(横軸)の大きな成果を生み出すことになります。

  ある食品会社の開発チームでは、開発メンバーが担当する一つひとつの仕事に必ず2つの目標を設定しています。メンバー一人ひとりが常に2軸思考を意識し、仕事で成果をあげるために、そして開発者として成長するために何を達成するのかを明確にしながら仕事をしています。この2軸目標の内容については、定期的にチームメンバーとリーダーの間で語り合いをしています。また、期末や期初などのタイミングで、その成果と反省をミーティングで発表し、チームメンバー全員で共有しています。
 また、ある精密機器メーカーでは、開発企画と呼ばれるスタッフチームが組織されています。しかし、このチームのメンバーは、ほとんど自分の席にはいません。メンバーは、常に開発プロジェクトのなかに入り込み、プロジェクトリーダーをサポート(開發の状況をウオッチしたり、会議を開催・運営したり、資料作成を手伝ったり、技術者の悩みや愚痴を聴いたりなど)する中で、開発現場に改善をしかけています。

 私は、これまでいろいろな会社の研究・開発現場を見てきましたが、事業軸(横軸)だけでマンネジメントしている、もしくは2つの軸がバラバラに分離している研究・開発で成果を上げている例は見たことがありません。一時的にヒット商品がでたり、技術開発に成功する場合もありますが、中期的には弱くなっていきます。反対に、2つの軸がしっかりかみ合いマネジメントされている研究・開発は、それぞれの成果が相互作用してスパイラルアップし、ダイナミックに進化していきます。「2軸思考」は、研究・開発マネジメントの基本思想であり、普遍的な原理であると、私は考えています。さらに広げて考えると、この思想は、研究・開発にとどまらず、様々な現場、仕事に適用できるものであると思います。かくゆう私も、コンサルタントとしての自らの仕事を常に2つの軸でとらえるように心がけています。

 最後に)
 私は、(株)日本能率協会コンサルティングの技術開発コンサルティングのチームに14年あまり在籍しました。その間に、多くの素晴らしい先輩とお客様に巡り合い、多くのことを学びました。本当に感謝しています。先輩方から受けついだものを大切にし、そしてさらに発展させて、社会に恩返しをしていきたいと思っています。

株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇



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