近年、ものづくり企業のR&D現場において、管理手法の導入が活発になっています。古くは、QC、QFD、VE、標準化、編集設計、原価企画・管理、さらに近年では、FTA・FMEA、デザインレビュー、QE、TRIZ、プロジェクトマネジメント、コンカレントエンジニアリング、フロントローディング、テクノロジーマネジメントなど、思いつくだけでも様々なものがあります。その背景として、R&Dの経営機能としての重要性が高まっていること(R&Dに対する投資が増加していること)、そのため効率よくアウトプットすること(効率化)が求められていること、さらには、これまで他の経営機能に比較して手つかずだったR&D分野おける管理手法の研究が進展したことなどが挙げられます。また、1990年代のバブル崩壊、そして2008年のリーマンショックといった経営環境の激変が、R&Dに対して一層の効率性を求めるトリガーとなりました。これらの管理手法の導入が、製品の品質改善や信頼性向上、原価低減、リードタイム短縮、開発費用の削減などの成果をつながっていることは確かであり、その貢献は決して小さいものではありません。
しかし、最近のR&Dでは、管理過多になっている現場も見受けられるように感じます。次から次へと新しい管理手法を導入して振り回されている現場、技術者・研究者の行動を細かく管理するマイクロマネジメントに陥っている現場、製品開発のプロセスを細かく規定し資料を作らせる現場など、管理すること自体が目的化し、管理手法が独り歩きしている状況を目にすることも多くあります。
R&Dが磨くべき力は、決して管理力ではありません。それは、言うまでもなく「技術力」です。それまでほとんど管理されていなかった組織に管理手法を導入すれば、短期的に一定の成果を出すことは可能です。しかし、それは平均的な成果でしかありません。自社独自の卓越した、かつ継続的な成果を実現するものは「技術力」なのです。ここで言う技術力とは、単に自社の持つ固有技術の質や量、あるいは特許などの知的財産の有無のみを指しているわけではありません。技術を用いて価値を生み出し形にする力、自社の強み技術を掘り下げ進化させる力、外部の技術を取り込み咀嚼する力、世代を渡って技術を伝承する力といった、技術を扱う組織の力を含めて技術力と呼んでいます。R&D現場に導入されるすべての管理手法は、管理力を高めるためではなく、技術力を高めるために用いられるべきだと思います。そのためには、まず自社のR&Dにおける技術力の現状はどうか、課題は何かを具体的に理解し、共有することから始める必要があります。
株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇
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