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第34回 「技術の見える化」の狙い

 コロナウイルスの感染が世界的に広がり、経済に大きな影響を与えそうな状況になってきました。人の移動が制限されるなかで、多くの企業では通常の活動を行うことがかなり難しい状態になっています。いつ終息するのか先行きの見えない不安の中ですが、ここは覚悟をきめて、未来へむけて自らの力を高めるために時間を使っていくこと大切だと思います。

 弊社が取り組んでいる「技術の見える化」も、未来へ向けて自らの力を高める取り組み、R&Dの組織能力を高める取り組みです。言うまでもなく、企業は保有する経営資源を組み合わせて事業を展開しています。そして技術は、ものづくり企業における最も重要な経営資源の一つです。この技術という経営資源をいかに効果的にマネジメントし、イノベーションを生み出せるかは、企業の現在だけでなく、未来を左右するといっても過言ではないでしょう。

 しかし一方で、技術はとても扱いにくい経営資源、言い換えるとマネジメントしにくい経営資源でもあります。その主な理由として、技術がもつ2つの特性が挙げられます。

(1)実体のない知識であること
 技術は、何らかの目的を達成するための知識の体系や集合であり、モノのように実体があるわけではなく、見たり触ったりすることができません。また、設計書や標準、データベースのような形式知だけでなく、経験を積んだ技術者、研究者の頭と体に染み込んだ暗黙知としても存在するため、俗人化しやすい傾向があります。

(2)多義性を持つ概念であること
 一つの言葉の中に複数の意味を持ってしまうことを多義性といいます。技術は、多義性をもった概念です。たとえば、複数人が集まり同じ技術について話をしても、それぞれの人が異なるイメージを持ち、その意味を解釈してしまいます。この多義性という特性ゆえに、組織内で技術をコミュニケーションすることが非常に難しくなります。そして、技術コミュニケーションの難しさは、そのままマネジメントの難しさにつながります。

  この扱いにくい経営資源を見える化し、コミュニケーションできるようにすることは、技術マネジメントの第1歩であり、R&Dが技術を活用する組織能力を高めるための最も重要な課題です。では、どのように技術を見える化すればよいのでしょうか。ここではその基本となる2つの考え方を紹介します。

(1)多面的な切り口で技術のもつ意味を具体化する
 多義性のもつ概念である技術を見える化するためには、多面的な切り口で技術を捉えることが必要です。そこで、弊社は、機能を中心に、事業、顧客価値、メカニズム、科学的原理の5つの次元で技術を捉える「技術の5階層モデル」という考え方を提唱しています。技術は、過去から現在に至る企業活動のなかで蓄積した知識であり知恵です。そして、その知は、多面的な意味を持っています。自社技術を見える化するために、次元の異なる複数の観点でその意味を掘り下げ、明確にします。

(2)意味のつながりを考察し、構造化する
 上述の観点で具体化した技術の意味は、それぞれが独立して成立するのではなく、互いにつながり、関連しています。そこで、これらがどう関連し、影響しあっているのかを考察・紐づけながら、顧客価値を起点としたシンプルな構造として記述していきます。そうすることにより、顧客価値を生み出す(生み出してきた)生き生きしたストーリーとして、自社の技術を見える化することができます。そして、それは過去から現在にむけて自社が創り出してきたイノベーションの歴史であり、未来へ向けて新たなストーリーを創り出すための基盤になります。

  弊社は、これら2つの考え方をベースに技術を見える化する手法として技術の構造化手法iMap アイマップ®を開発し、様々なものづくり企業・技術系企業の技術マネジメントを支援しています。

参考:第10回コラム 技術構造化手法 iMap アイマップ®

 「技術の見える化」とは、一般に技術の棚卸と称して行われているような、要素技術を細かく分解して資料にする、細分化した技術を分類・リストにしてまとめる、ポートフォリオをつくるといった技術管理手法ではありません。技術を構造的に見える化するプロセスをとおして、現場の技術者、研究者が自社技術に対する理解を深め、イノベーションマインドを高めるための戦略的な仕掛けです。そして、それは自社技術を活用し、未来の事業と顧客価値を創り出していくR&Dの組織能力を高めることにつながります。

 コロナウイルスの影響でなかなか思うように仕事が進まない状況が続いていますが、このような時だからこそ一度腰をつけて自社の技術に対する理解を深め、見える化する取り組みに時間を取ってみることをお勧めします。

ケミストリーキューブ
平木 肇



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