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コラム

第12回 R&D自己変革の着眼

 昨年は、アベノミクスを中心に回った年でした。景気は「気」からといいますが、1本目の金融政策、2本目の財政政策が、まさに日本経済の雰囲気を変え始めたように思います。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まり、すでに日本が新たな成長期に入ったようなマスコミの論調もあり、何やらそのような錯覚さえ覚えます。ついこの間まで多くのマスコミが「日本はダメだ」的な論調をこぞって展開していたことを考えると、何やら少し滑稽な感じさえします。少子高齢化による労働力の減少と社会保障負担の増大、震災からの復興、原発・エネルギー問題、経常収支の悪化など、日本が抱えている課題は以前とほとんど変わっていないのですが。マスコミとは、いつの時代もそのようなものなのでしょうか。とはいえ、今後本格的に取り組まれる3本目の矢である成長戦略、すなわち経済の構造改革の内容と成否によっては、かつてのサッチャリズム、レーガノミクスと並び、アベノミスが歴史に名を残すのかもしれません。一人の日本人として、ぜひそう期待したいと思います。

 さて、今年はどのような年になるのでしょうか。アメリカの金融緩和縮小の影響や、中国の経済成長の鈍化、国家間の政治的な問題、国内的には4月の消費税増税など経済面でのリスクは様々ありますが、グローバルとイノベーションが、経済を大きく動かしていく両輪であることは変わらないでしょう。そして、世の中の雰囲気がどう変わろうとも、グローバルとイノベーションという大きな潮流に対して真摯に向き合い、今を変えていく力を持つ企業が輝くことと思います。しかし、「グローバルとイノベーションに真摯に向き合う」とは、自社も海外進出しよう、とか新商品やサービスを開発しよう、と安易に考えることではありません。自社にとってのイノベーションとは何かを、グローバルな視点で深く省察し、自社を進化させるための具体的な取り組みを着実に実行していくことが、「グローバルとイノベーションに真摯に向き合う」ことの基本的な意味だと思います。

 グローバルとイノベーションという企業経営における2大潮流は、ものづくり企業がこれまで蓄積してきた技術と人材をテコに、企業を成長させる大きな機会をもたらします。しかし、同時にグローバルとイノベーションに真摯に向き合わない企業にとっては、大きなリスクとなります。環境・エネルギー、食糧・水資源、農業・漁業、医療・介護など、これからの社会が解決していかなければならない課題が山積する中で、人間がいかに快適かつ安心して暮らせる社会を実現するのかを探求する中に、ものづくり企業が取り組むべきイノベーションの種が溢れています。そして、それらは、グローバルなレベルで求められています。まさに、ものづくり企業が輝く時代が来ていると思います。しかし、今到来しようとしているものづくり企業の時代は、かつて、高品質低価格で市場を席巻し、世界の工場として発展した高度成長期とは明らかに異なります。変化する社会の課題を俊敏に捉え、顧客の課題解決のための技術を磨き上げる企業、もの中心ではなく、価値中心でものづくりに取り組む企業が輝く時代です。

 グローバルとイノベーションを機会とするか、リスクとするかは、まさに企業次第であり、そのための取り組みは、それぞれの企業の戦略により様々ですが、ここでは、R&Dの技術力・価値創造力の向上へむけた3つの着眼を紹介します。

[着眼①]新機軸を生み出すリーダーシップ
 従来の延長線上とは一線を画した新たな機軸を生み出していくためには、強い意志をもった技術者、研究者が必要です。新たな価値を実現するためのものづくりプロセスは、これまで経験したことのない課題の発見と解決の連続であり、試行錯誤のなかから得られた気づきを学びに変え、前進していく過程です。そして、その原動力となるのは、技術者、研究者が生み出す知恵です。知恵は知識ではありません。知識は、データ化し、文書化することでシステムの中に組み込めますが、知恵は個別の具体的な課題に直面し、その課題を突き詰める中から生まれるものです。そして、そこには「これを実現したい」「この課題を解決したい」という強い意志をもった技術者、研究者による共創が不可欠です。意思のない人々が知識を共有するだけでは知恵は生まれません。未知の課題にむけて共創する経験を積み重ねる中から、価値の創造へむけたリーダーシップを開発する仕組みが必要です。

[着眼①]価値を起点としたR&Dプロセス
 第2の着眼は、R&Dプロセスを、価値を起点としたプロセスへ転換していくことです。商品開発、技術開発を、ともすれば従来の延長線上、あるいは単に顧客に言われたから、他社がやっているからという理由で目標を設定し、取り組んでいないでしょうか。誰にどのような価値をもたらすのか、それは従来方法とは何がどのように違うのかを、開発の最初の段階で鮮明にイメージし、それを起点として商品仕様、技術仕様を具体化していくプロセス、すなわち価値を起点としたものづくりプロセスをつくることが必要です。

[着眼③]組織の壁を超えた知の融合
 第3の着眼は、技術者、研究者の共創です。イノベーションは、自分たちが持っている既存の知に、新しい知を組み合わせることで生み出します。しかし、多くの会社のR&Dでは、事業・製品もしくは技術分野毎の縦割り型の組織によって細分化され、横串をとおした知の連携、融合が起こりにくい構造になっています。既存の組織構造を壊すような取り組みを、戦略的・継続的に仕掛けていくことが重要です。

 弊社では、上記3つの着眼を柱として技術力・価値創造力を戦略的・継続的に高度化・革新する取り組みをR&D自己変革戦略と呼んでいます。本年がものづくり企業にとって実りの多い年になるよう、R&D自己変革戦略の実践に全力を尽くしてまいります。本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇



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