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第35回 R&D支援スタッフの取り組み姿勢

 現在、コロナウィルスの感染拡大によって、危機的な状態になっています。危機管理は、組織のトップマネジメントの強いリーダーシップのもとで、現場が自発的にスピード感を持って動くことが求められます。そして、これはイノベーションにおいても同様です。イノベーションは、未来の創造とともに、将来起こりうるリスクに適切に対応しなければなりません。そして、イノベーションを担うR&D現場のリーダーには、先を読み、リスクに対して早い段階で自発的に対応していく力が求められます。今回のコロナウィルスは、短期的には厳しく苦しい状況をもたらしますが、中長期的には、イノベーションへむけたリスク対応力の向上につながることを期待しています。

 このほど、弊社では、R&D支援スタッフ(以下、スタッフ)向けのソリューションをスタートしました。そこで、今回のコラムでは、様々なものづくり企業のスタッフの方々と対話する中から得られた知見をもとに、スタッフがR&Dへの価値提供力を高めるために必要な“取り組み姿勢”についてお話ししたいと思います。

 まず、本題に入る前に、R&D支援スタッフとは何かについて、その定義を共有しておきたいと思います。弊社では、R&D(研究・技術開発・製品開発・生産技術開発)のイノベーション創出を、知識・情報の活用面からサポートすることを役割とする人材及び組織のことをR&D支援スタッフと呼んでいます。具体的には、研究・技術企画、知財、情報調査などの部門を指しています。R&D支援スタッフが提供する価値としては、知識・情報そのものの提供と、知識・情報を活用する方法(メタ知識)の提供の2つがあります。それぞれの部門における具体的な提供価値を以下に示します。
研究・技術企画:市場・技術などの仮説、手法・フレームワークの提供
知財:技術・事業視点における特許情報、特許情報の活用方法の提供
情報調査:知識・情報、知識・情報の活用方法の提供
 そして、これらの価値を提供していく力、すなわち価値提供力を高めるためには、スタッフ部門が組織として共有し、実践していくべき3つの基本的な取り組み姿勢があります。

目的を明確にする

 R&Dは、「現在の開発テーマを完成させること」ことが主要なミッションですが、近年は、「将来の新商品・新技術を創造すること」が求められています。これに伴いスタッフも、[自社発明の技術動向調査]などの目的が明確な依頼業務に加え、[対象領域の全体像調査]などといった目的が曖昧な業務へも能動的に対応していくことが必要になりました。そして、そのためには、スタッフ自らが「目的を明確にする」スキルを高めることが必須になりました。下記に、目的を明確にするための基本的な考え方を2つ紹介します。

1)段階的に目的を問う
 「何のために」を繰り返して、目的を段階的に考えていきます。これにより、本来の目的を明確にします。例えば、一例として、「技術の全体像を見たい」というような曖昧の依頼の場合は、「技術の全体像を見たい」(何のため)→ 「自社の強みを明確にするため」 (何のため) →「(自社の強みの技術が活かせる)新たな製品を創出するため」のように考えていきます。

2)適切な段階の目的を選定し、具体的な達成手段を検証
 今回の目的としてふさわしい段階の目的を選定し、その目的を達成するための具体的な実行手段がイメージできるか?を考えます。実行手段が、全く、想定できない(社外調査も含め)場合は、必要により修正し再設定します。

 多くの人は、依頼を受けた時、「どのように進めるか?」と手段を先に考えます。しかし、イノベーションを進める場合は、「目的は何か?」を始める前に問うことで、非常に大きな効果をもたらします。是非、思考習慣となるまで意識して繰り返すことをお勧めします。

R&D現場の視点に立つ

 R&D現場の視点に立つために、もっとも好ましい方法は、スタッフ自身がR&Dの経験をすることです。経験があれば、「自分が、このような情報や知識があれば、このように役立つのではないか?」と先回りして考えることができます。しかし、R&D経験がない場合は、これまで行っていた業務範囲を少し超えて、R&D現場に近づき実践していくことが有効です。そのための考え方を2つ紹介致します。

1)R&Dがどのように判断し行動するか?から考える。
 R&Dは、スタッフの調査結果などに基づき、何らかの判断・行動を行うことになります。この判断行動について、ケース毎(例えば、増加傾向であったら?減少傾向なら?)に事前に討議・構想します。

2)現場に近い情報源を先に活用する
 最近、特許情報を事業に活用しようとする試みが多くなりました。しかし、いきなり特許情報調査を活用しようとしてもうまくいきません。まず、顧客・市場情報など、実際のビジネスのイメージがわかる情報を先に整理することが有効です。

プロセスに拘る

 「プロセスに拘る」とは、R&Dへ結果を提供するのと同時に、価値を提供するためのプロセスを細分化し、そのプロセスのレベルを高める活動を行うことです。手順を細分化することで、プロセスを改善するとともに効率的なスキル習得が可能になります。
 弊社は、プロセスのレベルを高めていくために、「プロセスレビューミーティング」を行うことを推奨しています。これは、プロセス(考え方や手順)に特化したミーティングで、業務プロセスにおける問題点をレビューし、改善していくものです。多くの企業では、結果のレビュー(どこまで進んだのか?どこができなかったのか?等)は行っていますが、プロセスにフォーカスしたレビューを行っている例は少ないのではないかと思います。なお、この考え方は、弊社の「2軸思考」がベースになっています。

参考:第4回コラム R&Dマネジメントの基本思想

 これら3つの取り組み姿勢を参考にして頂き、R&D支援スタッフとして貴社独自の価値提供力を高めて頂きたいと思います。

ケミストリーキューブ
葉山 英樹

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