一般的に、新しいテクノロジーへの関心と適応は、若年層の方が高いと言われています。R&D現場における生成AIの活用もまた然りで、若手が積極的である一方で、ベテランの技術者、研究者やマネージャー層は消極的である例が見受けられます。しかし、生成AIの成果を最大化するためには、本来は、組織のマネージャーやベテラン人材が、その活用の中心を担う必要があります。
R&Dのミッションは、技術によって新たな価値を創造することであり、生成AIの導入においても「どんなアウトプットが得られるか」だけでなく、「そのアウトプットがどのように価値創造につながるのか」を考える必要があります。この観点から見ると、生成AIの効果的な活用には、顧客視点、技術の文脈理解、組織との接続、事業としての具現化といった多層的な知が必要になります。そして、これらを俯瞰して統合的に思考し、判断できるのは、ベテラン人材です。実際に、生成AIのプロンプトを工夫し、最適な回答を引き出すには、対象業務や顧客、事業ドメインへの深い理解が不可欠であり、単なる言語的な操作だけでは有効なアウトプットを得ることは難しいのが現実です。
ベテラン人材が持つ経験知と文脈理解は、生成AIが生み出す可能性を現実の価値に変換する「翻訳機能」を果たします。生成AIを活用するうえでは、AIが提供する無数の情報や提案を「意味ある行動」へ変換する力が求められます。これには、ベテランが培ってきた複眼的な見方や多角的な思考力が欠かせません。
生成AIは単なるツールではなく、蓄積した組織の知と経験を活かすための「学習システムの再構築」にほかなりません。そして、その中心を担うのは、経験に裏打ちされた深い知見を持つベテランであり、彼らが推進役となることが、生成AIを成果に結びつけていくための重要な課題といえると思います。若手の柔軟な発想とベテランの知見を融合させた協働体制こそ、生成AI時代において持続的競争力を生み出す鍵になると思います。
ケミストリーキューブ
平木 肇
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