近年、生成AIの進化は目覚ましく、特に自然言語処理モデル(ChatGPTなど)や画像・音声生成技術は、多くの企業活動において革新的な変化をもたらしています。これらの技術は、マーケティング、カスタマーサポート、デザインなどの分野で積極的に導入されており、業務の効率化や創造的なアイデア創出に貢献しています。
しかし、技術開発の最前線であるR&D現場では、生成AIの導入が期待されるほど進んでいないという例も多く見られます。これは、技術者や研究者の業務が特有の要件を持ち、単純なタスクの自動化だけでは大きな価値を生み出しにくいことが要因の一つです。
ある大手エレクトロニクス企業の技術系社員を対象とした生成AI活用に関する講演を行なった際、「実際の業務でどの程度生成AIを活用しているか」について質問したところ、以下のような結果が得られました。
・多く人が「ほとんど使っていない」「1日に数回使用する程度」と答えた
・「業務の中で使うのが当たり前になっている」と答えた人はほとんどいなかった
・使用方法の大半は「単純な質問を入力して回答を得る」といったものであり、「構造化されたプロンプトを作成して使用している」と答えた人は1割未満だった
これらの結果から、多くの技術者、研究者が生成AIを補助ツールとして利用しているものの、未だ効果的な活用には至っていないことが分かります。
生成AIの活用が進まない主な理由として、以下の3点が考えられます。
・R&D業務における具体的な活用イメージが不足
生成AIがどのように研究開発プロセスに貢献できるのかが不明確である。例えば、市場や技術の調査・分析やアイデア出し、技術文書(企画書や報告書)の作成などの業務で活用できる可能性があるが、それらの実例が十分に共有されていない。
・プロンプティング(AIへの適切な指示)スキルの不足
効果的にAIを活用するためには、プロンプトの設計が必要である。しかし、ほとんどの技術者、研究者はプロンプトエンジニアリングのスキルを十分習得していないため、生成AIを単純な検索ツールの延長線上でしか使えていない。また、プロンプティングスキルが不十分な中で使用しても、期待するような出力が得られず、「生成AIは使えない」という印象を持ってしまう。
・「AIを使うと人間の思考力が低下する」という懸念
AIに依存することで創造的思考や問題解決力が衰えるのではないかという不安がある。特にR&Dでは、技術者、研究者の独自の発想や洞察が重要であり、AIに頼ることでその力が低下するのではという懸念が根強く存在する。
生成AIは、R&Dの生産性向上や価値創造力を高める強力なツールであり、今後の技術競争力を左右する重要な要素になることは間違いありません。そして、その効果的な活用に向けては、下記の課題に対する組織的かつ戦略的な取り組みが重要です。
・活用の具体的なユースケースの作成と共有
・プロンプティングスキルを向上させるための教育
・人間とAIの役割分担の明確化(生成AI活用によって生み出した時間を使って人間が何をするのか)
・企業全体・R&D全体でAI活用を推進する文化をつくる
R&D現場における生成AIの活用は、まだ発展途上にあるものの、適切な取り組みを進めることで大きな成果を生み出す可能性を秘めています。技術者、研究者がAIを効果的に活用するためには、具体的なユースケースの提示やプロンプティングスキルの向上が不可欠です。また、「AIによる効率化」と「人間の創造力」のバランスを見極めることが、今後の技術競争力を左右する重要な要素となると考えられます。生成AIを単なる補助ツールとしてではなく、研究開発の質を高めるパートナーとして活用することで、R&Dの生産性向上と革新を加速させることが期待されます。
ケミストリーキューブ
平木 肇
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