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コラム:コンサルティング現場からの「気づき」COLUMN

第8回 長期と短期をつなぐ

 前回(第7回)のコラムにて、技術経営の3つの要件を紹介しました。今回は、第1の要件「長期的視点にたって企業が経営されていること」について深堀りしたいと思います。

■長期視点にたった企業経営のフレームワーク
 かつて、ドラッガーは、著書『マネジメント』の中で、企業経営をシンプルに突き詰めると、マーケティングとイノベーションの2つに集約できる、と言いました。マーケティングとは、新しい顧客の創造であり、顧客に対する新しい価値の創造です。イノベーションとは、新しい価値の獲得であり、具現化です。技術経営は、新しい価値の創造と獲得を、技術という経営資源を活用して実現していくことを企業経営の基本に据えています。
 新しい価値と獲得につながる、競争力のある独自技術を創っていくためには、時間がかかります。言い方を変えれば、試行錯誤しながら問題解決する過程をとおして蓄積された技術ほど、他社に真似のできない強い技術になります。すなわち、技術経営の実践には、長期的視点が不可欠なのです。
 では、長期的視点にたった企業経営(マネジメント)とは、具体的に何をすることなのでしょうか。私は、いつも以下に示すシンプルな枠組みで考えています。
 @未来の企業の姿(ビジョン)を常に持っていること(共有していること)
 A現在の状況を冷静に分析し、ビジョンとのギャップを把握していること
 Bギャップを埋めるための課題と具体的な施策が明確になっていること
 C現場での施策の実践をとおして、継続的な組織学習が行われていること
企業の中に、@〜Cの実践サイクルをつくっていくことが、技術経営の必須の要件であり、重要な目標になります。

■長期の課題と現場の矛盾
 上記の枠組みが示すように、長期的視点に立った経営(マネジメント)を行うためには、企業が未来へ向けたビジョンを持つことが必要です。そして、ビジョンと現状との差分を明確にしながら、ビジョンを実現するための課題を具体化し、その解決に取り組んでいくことが重要です。しかし、一方で、現場は、日々今の仕事に追われています。現場から上がってくる問題は、会議の効率が低い、職場のコミュニケーションが悪い、業務のミスが多い、仕事の報告がうまく伝わらない、部門間の連携が悪いなど、今の仕事の中で表出化している矛盾点です。これらの今の矛盾点を改善せずに「長期を見た課題に取り組め」といっても、現場は冷めてしなうばかりか、「何をいっているんだ。今はそんな状況じゃない。経営は現場を全く分かっていない。」といった反感を抱いてしまいます。

 このような場合、「長期を見た課題と今の現場の問題のどちらを優先すべきか」といった二者択一の議論に陥りがちですが、注意が必要です。経営資源は限られていますので選択と集中は必要なのですが、問題に対する表面的な理解で二者択一を繰り返していても永遠に長期と短期は両立しません。実は長期の課題と短期の問題は結び付いていることが多いのです。たとえば、「会議の効率が悪い」という現場の問題を例に考えてみましょう。この問題の原因を議論すると、多くの場合「現場の担当者の会議のやり方が下手だ」とか、「会議運営のルールが明確になっていない」などが原因として挙げられます。確かにこれらは原因の一端ではあるのですが、そこで止まってしまうと「会議運営のルールをつくろう」とか、「会議にファシリテーターをつくろう」といった対策しかでてきません。しかし、会議が非効率な原因をもっと深く掘り下げていくと、「業務のプロセスが現実の仕事を合っていない」「組織が細分化しすぎていて出席者が多すぎ、議論にならない」「意思決定者に業務が集中していて忙しく、会議に出席できない」など、業務プロセスや組織体制の問題が見えてきます。そして、業務プロセスや組織体制の問題は、より中長期的視点から最適な企業のあり方形をつくっていくべき課題とつながります。

 すなわち、今の現場の問題を深く掘り下げることで、短期的に取り組むべき課題(会議の運営ルールづくり、ファシリテーターの設置など)と、企業の未来のビジョンを見据えて中長期的に取り組むべき課題(業務プロセスの改革、組織体制の再構築など)が見えてくるのです。そして、これらの課題を、現場が主体となって取り組むものと経営陣が先頭になって取り組むものに仕分けし、課題解決に向けた取り組みを現場と経営がそれぞれの役割を発揮しつつ、連携して取り組む体制(仕組み)を作っていくことが鍵になります。


■ミドルマネジャーが鍵

 企業が未来へ向けて進化し、成長していくためには、「長期と短期をむすぶ」、言い換えれば、「現場と経営を結ぶ」ための工夫や仕組み・仕掛けが大切になります。そして、その中核を担うのはミドルマネジャーなのです。現場の問題を理解し、その原因を深く掘り下げながら経営課題と結び付けていく、その機能を担えるのはミドルマネジャーだけだからです。一時、企業の中にITが普及し始めたころ、フラット型組織ブームなどとも相まって、「ミドルマネジャー不要論」が声高に叫ばれました。確かに、単に情報伝達や、上からの方針の展開・管理を行うだけのマネジャーであれば不要になるでしょう。しかし、長期と短期をつなぎ、現場と経営をつなぎながら、企業を進化させていくドライブ機能としてのミドルマネジャーの重要性はますます増しています。そして、ミドルマネジャーに求められるものは、常に企業の中のあらゆる矛盾が凝縮されて表出化する現場に目線を置きつつ、現場の問題を現場で終わらせることなく、企業の中長期の改革課題につなげていく力なのです。
 当然ですが、組織が進化するためには、経営者(トップマネジャー)のリーダーシップと強いコミットメントが絶対必要です。経営者に求められるリーダーシップは、決めることです。組織として、何の課題にフォーカスしていくべきかを決めなければなりません。意思決定は、経営者の役割そのものだからです。そして、一旦決めたら、細かく現場の仕事に口を出し、チェックすることではなく、高い志と熱い使命感をもったミドルマネジャーを信頼し任せ、存分に力を発揮できるような環境をつくることです。決して、丸投げしなさい、といっているのではありません。経営者として、活動の中身や経過には、しっかり目配りをする必要があります。そのうえで、必要なサポートとアドバイスを行うのです。現場と経営をつなぎ、企業を革新するキーマンである一方で、経営からの期待と現場の矛盾の間で最も苦しんでいるのもミドルマネジャーです。「長期と短期をつなぐ」言い換えれば「現場と経営をつなぐ」さらに一歩進めて「改善と革新をつなぐ」、このための中核機能であるミドルマネジャーがいかに活躍できるような企業をつくるか、経営者が取り組むべき最大のテーマであると言えます。
               

2013年10月
株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇



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