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ケミストリーキューブは、ものづくり企業の成長と技術人材の開発を支援するコンサルティング会社です。

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コラム:コンサルティング現場からの「気づき」COLUMN

第3回  エンジニアの英知を活かせ!  

 残暑の折、いかがお過ごしでしょうか?厳しい炎暑の日々が続いていますが、食事と睡眠に十分気をつけながら、暑い夏を楽しく乗り切りたいものです。

 先日(8月11日)、NHKで放送された情報番組「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオ 世界を驚かせる“新技術戦略”」で、マツダの事例が紹介されていました。マツダは、2006年から開発革新・ものづくり革新に取り組み、独自の商品展開で業績を回復させた企業として知られています。10年先を見据えた商品ビジョンを目指し、開発のあり方、モノづくりのあり方の大胆な革新に取り組んでおり、その核となるのは“一括企画”と言われる開発手法です。“一括企画”は、開発プロセスの源流段階から、エンジニアが膝詰めで製品の全体構想や技術課題を議論し、協働して開発を進めていくというもので、エンジニアの主体性を高め、知恵を活かすことを狙いとしています。この開発革新活動の背景には、分業化が進む中で、自分の担当範囲のことしか考えないエンジニア、製品を理解せずに開発作業をこなしているエンジニアが増えてしまい、製品の全体構想を語ることができ、意思を持ち設計できる骨太なエンジニアを育てていかなければ、革新的な車を生み出せなくなる、という強い危機感がありました。マツダの革新活動は、開発のあり方、ものづくりのあり方を大きく改革することと同時に、骨太エンジニアの育成にも繋がっています。

 私は、マツダの危機感は、多くの企業のR&Dが抱える危機感と共通していると思います(研究と開発では特性の違いはありますが、本質的には同じ問題を抱えています)。市場の成熟化による製品アーキテクチャーの固定化、技術の先端化と専門分化、競争環境の激化による開発の効率追求など様々な背景から、研究・開発現場では業務の分業化が進んでいます。また、製品が提供する顧客価値や製品全体の構想、重要な技術課題などについて、エンジニアがフェーストゥフェースで議論する場は少なくなり、代わりに細分化された開発作業を担当者ごとに割り当てて、その進捗を管理するといった形式的なプロジェクト管理が行われている現場が多く見られます。そのようなR&D現場では、自分の担当範囲のことしかわからない(興味のない)エンジニア、開発作業をこなすことばかりに目を奪われているエンジニアが増え、製品全体を構想できるエンジニア、開発全体を統合してマネジメントできるエンジニア、意思を持って設計を語れるエンジニアが少なくなってしまいます。そして、結果として、慢性的な開発期間の遅延や、開発費用の超過、商品の魅力の低下、という問題につながっています。

 私がコンサルティングを担当したある情報通信機器メーカー(以下、A社と呼びます)の技術開発部門でも同様の状況に陥っていました。A社の技術開発現場では、厳しさを増す競争環境、製品ライフサイクルの短期化、開発規模の増大などの問題に直面する中、開発業務の分業化が進み、形式的な開発管理・プロジェクト管理が行われていました。結果として、慢性的な開発期間の遅延、開発費用の超過、商品の魅力の低下といった問題に苦しんでいました。また、A社の技術開発部門は、別の側面からも大きな問題を抱えていました。毎年行われていた従業員満足度調査において、技術開発部門の満足度は特に低く、技術系新入社員の配属希望先としてもあまり人気がない、といった状況でした。
 どのように開発を革新すればよいのか、技術開発部門の幹部が話し合う中で、ある部長がポツリとつぶやきました。「開発ってこんなにつまらなかったかな。我々が開発していた時は、製品をどうするか、技術課題をどう解決するかを昼夜問わずエンジニアが集まって議論し、夜を徹して開発に没頭したものだけどな。今のエンジニアは、単に自分の仕事をこなしているようにみえる。それじゃ開発はつまらないし、満足度だってあがらないよな」。この一言は、A社の開発革新の方向性を決める大きな転機になりました。A社は、これまでの開発のあり方を再点検し、形式的な開発管理やプロジェクト管理を廃し、エンジニアの主体性を高め、英知を活かす開発プロセスを作り上げていく方向へ大きく舵を切りました。そして、以下の施策を中心に、開発プロセスの大胆な改革に取り組みました。

・集中設計検討会の実施と現場でのコミュニケーションの充実。
 従来実施していた進捗管理中心のプロジェクト会議を廃止。代わりに開発の源流段階(企画・構想
 設計段階)において、開発の中核メンバーが缶詰になり、時間無制限で商品の企画・全体構想・技術
 課題を徹底的に議論し、見通しをつける集中設計検討会を実施。また、開発途中で明らかになった問
 題を必要なメンバーがすぐに議論できるように、小スペースの打ち合わせ場所を充実させた。

・設計規定の大幅な削減とプロセスの標準化
 細かい設計規定を整理し、シンプル化することで大幅に削減し、代わりに設計プロセス・設計思想の
 標準化を行った。

・開発レビューのシンプル化
 設計仕様書など膨大な量の開発ドキュメントを一つひとつレビューするのではなく、重要課題を
 A3シート1枚にまとめ、集中的に議論することで、レビューを単なる問題指摘の場で終わらせず、
 知恵を集めて課題解決の道筋をつける場にした。

・製品のプラットフォーム化、部品共通化の徹底
 今後数年に渡り開発する複数の製品を見据えながら、コアとなる製品機能をプラットフォームとして
 定義し、その先行開発を充実すると同時に、製品間の部品の共通利用を徹底した。

 A社の開発革新活動は、いくつもの壁にぶつかりながらも粘り強く進められ、スタートから1.5年後には全ての製品開発プロジェクトで開発期間の遅延、開発費用の超過がなくなり、3年後には開発期間をさらに50%短縮することに成功しました。加えて、商品の魅力も向上し、市場シェアの大幅な拡大につながりました。また、A社の技術開発部門の革新は、大きな事業成果を生み出しただけでなく、エンジニアの意識、行動面でも変化を生み出しました。エンジニアがフェーストゥフェースで技術課題を議論する文化が定着し、顧客視点で製品全体を考えるエンジニア、部門・担当業務の壁を超え協働するエンジニアが増えたことに加えて、技術開発部門の従業員満足度も大幅に向上しました。

 私は、A社のコンサルティングに取り組む中で、開発プロセスの中でエンジニアの持つ英知を活かすことが、いかに大きな成果につながるかを実感しました。そして、エンジニア、研究者の英知が活かせる研究・開発のあり方をいかに作っていくのかが、研究・開発マネジメントの最重要課題であると確信しています。


2013年8月
株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇




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