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コラム:コンサルティング現場からの「気づき」COLUMN

第2回  イノベーションの考察  〜有機ELは液晶を超えられるか?〜

第2回コラムでは、イノベーションをテーマに取り上げてみようと思います。昨今、イノベーションという言葉は、耳にしない日はないくらい経営や経済の分野で浸透しています。現代の企業経営において、イノベーションは最大の戦略課題であると言えるでしょう。しかし、少し前までは、“イノベーション=技術革新”と誤解され、用いられる場合も多くありました(最近は、そのような誤解も少なくなりましたが)。イノベーションは、言うまでもなく、新たな価値の創造です。たとえ、どんなに革新的な技術であっても、技術を使う人が価値を感じなければイノベーションではありません。逆に、枯れた技術であっても、その用途や他技術との組み合わせを変えることで、新しい価値を生み出す、すなわちイノベーションになる場合もあります。技術革新は、イノベーションの手段の一つであり、決してイノベーションそのものではない、つまり目的ではないのです。また、イノベーションを考えるとき、新たな価値の創造の“新たな”という部分も重要です。これまでの商品やサービスが提供していた価値と同じもの、もしくは少しレベルを上げたものを実現することをイノベーションとは言いません。これまでの商品が提供していなかった新しい価値軸を提案し、使用者に受け入れられてこそイノベーションと言えます。

 具体例で、もう少し話を進めましょう。取りあげる例は、ディスプレイ用途における有機ELと液晶です。昨今、メディアなどでは、次世代のディスプレイ技術として、有機ELが盛んに取り上げられています。表示性能や、製品寿命という面ではほぼ実用レベルに達成しており、サムソンやLGディスプレイなどの韓国メーカーが量産へ向けて積極投資をするといった二ュースも耳にします。既存技術である液晶に比較し、消費電力や薄さの面でメリットがあり、またデバイス構造がよりシンプルになるため、製造コストも原理的には安くできる、と考えられています。では、本当に有機ELは、液晶を置き換えてしまうのでしょうか?どのような技術が将来スタンダードになるかを予測することは、正直難しいと思います。ただ、上述したイノベーションの観点から考察すると、有機ELが液晶を置き換えることはそう容易なことではないと思います。

 少し遡って、液晶がCRT(Cathode Ray Tube:ブラウン管と言ったほうが馴染み深いかもしれません)を置き換えた事例を考えてみたいと思います。液晶は、電卓の表示装置として採用された当初、単純な白黒表示しかできませんでした。しかし、そこには、CRTに比較し圧倒的な低消費電力、薄さ、軽さというユニークな特性がありました。やがて、液晶の技術はどんどん改良され、マトリクス表示が可能になり、TFT技術との組み合わせで鮮明な表示が得られるようになりました。まだ、光学補償フィルムなどの技術との組み合わせにより課題であった視野角も大幅に改善され、表示性能はCRTに近づいていきました。「美しい映像を楽しむ」というCRTが提供してきた価値と同様の価値を液晶が提供できるようになったとき、液晶が持つ低消費電力、薄さ、軽さというユニークな特性が、「どこでも持ち運んで映像を楽しめる」「リビングなどテレビを設置する室内の美観を高められる、空間の価値を高められる」「クールな外観、デザインを楽しめる」といった新しい価値につながり、使用者の心を捉えました。そして、激しい競争とメーカーの不断の努力により、価格が下がりはじめると一気にCRTを置き換えていきました。液晶がCRTを置き換えた事例は、「液晶をディスプレイ技術のスタンダードにしたい」という技術者達の熱い思いと強い意思、不断の努力がなければ決して実現できなかったものだと思いますが、加えてCRTとは全く異なる新しい価値軸を実現できる技術であったことが、その最大の理由であると考えます。液晶がCRTを置き換えた事例は、まさにイノベーションだったと言えます。

 では、有機ELは液晶にない新しい価値を提供できるでしょうか?私は考えるところでは、まだその可能性は見えていません。液晶に比べて、低消費電力にできる、薄くできる、軽くできるという性能的なメリットはありますが、それらは新しい価値につながるほどのものではないように思います。消費者は、今のテレビの薄さが半分になっても、あまり価値は感じないでしょう。大きな価値の違いがないとすれば価格の勝負になるわけですが、有機ELは原理的に液晶よりも製造コストが安くできる可能性はあるとはいえ、世界中に普及し、低コスト化が進んだ液晶を価格面で上回ることは容易なことではありません。ディスプレイという用途において、有機ELがイノベーションにつながる姿はまだイメージできません。液晶を超えるためには、“有機ELだから”という新しい価値を作り出していく必要があるでしょう。

 繰り返しになりますが、イノベーションは、技術革新ではなく新しい価値の創造です。これからのR&Dリーダー、技術者、研究者は、自分たちが携わる技術が実現する価値とは何か、どのような価値を実現することができるのか、をイメージしながら研究開発に取り組むことが求められます。そして、“手段”である技術を起点に、新たな価値という“目的”を創造する力をどう高めていくのかが、これからのR&Dマネジメントの最重要課題の一つとなるでしょう。              

(最後に)
 読者の中には、有機ELの研究・開発に取り組んでいる方がおられるかもしれません。私もかつては技術者でしたので、技術者、研究者の皆さんの技術を愛する思いと血の滲むような努力をよく理解しているつもりです。決して、有機ELの批判をするために、今回の事例として取り上げた訳ではないことをご理解いただければ幸いです。有機ELは素晴らしい技術だと思います。そして、それがイノベーションにつながることを心より期待しています。

2013年8月
株式会社ケミストリーキューブ
平木 肇



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